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小平奈緒選手の金メダルへの道:『縦型比較思考』を身に着けろ!

 平昌オリンピックで金メダルを獲得した小平奈緒選手が、このオリンピックで目指していたのは「究極の滑り」をすることでした。もちろん金メダルを取るという結果を求めていない訳ではないですが、あくまでもソチ後の4年間は「究極の滑り」をすることにこだわって過ごしてきたことが明らかになっています。

体操の内村選手も「美しい体操」にこだわっています。オリンピック金メダリストが口にするこれらのフレーズはどんな意味合いがあり、パフォーマンスにどのような影響があるのでしょうか。  小平選手は「究極の滑り」を目指したことで、『縦型比較思考』をつくりあげ、自分自身の強さを引き出したのだと考えられます。そこで、この『縦型比較思考』が小平選手に一体どのような効果を生み出したのか、分析していきたいと思います。

 小平選手は500mで金メダルを獲得後の会見で次のように語っています。

「金メダルだったりいい記録を出したことが、究極な滑りかっていうと多分そうではなくて、やっぱり氷とどんなやり取りができたかっていう自分の中にだけ残るものが、何かその新しい感覚であったり、もしかしたら新しい景色だったりを今回感じられた。」  金メダルやいい記録は、周囲との比較によって出る結果です。スポーツ選手は、あの人に勝ちたい、あの人よりも上に行きたい、あの大会でチャンピオンになりたいという願望を持つことは当然のことでしょう。

 これは『横型比較思考』と言われ、周りとの比較によって自分を評価する考え方です。しかし、デューダ博士はリサーチで横型比較思考は自分の能力が目標達成に不足と疑い始めると忍耐力が低下し、挑戦を避けるようになり、それによってパフォーマンスが低下しまた粘れなくなることを指摘しています。  しかし、小平選手が目指す「究極の滑り」は小平選手だけがわかる小平選手の評価基準で作り上げられた最高目標で、そうありたい自分像であることがわかります。あくまで、自分の中にある最高のものを追求していく姿勢が表現されています。  これは、他者との比較からつくられる『横型比較思考』に対して、究極の滑りをする自分と現状の自分との比較をベースにした『縦型比較思考』であるといえます。

 小平選手は、「究極の滑り」を目指すことで、『横型比較思考』のみに縛られるわけではなく、『縦型比較思考』を定着させていたことを物語っています。

 こちらの思考は、試合で他の選手との多少の能力差を感じても「なんとかなる」「うまく行く」と考えることができたり、失敗してしまってもその状況に耐え、挑戦的目的を選択して努力することがわかっています。

 小平選手にとって、27歳で迎えた2度目のオリンピックとなるソチ大会は年齢的なピーク、経験値の向上から"勝負の大会"として金メダルに対する想いが強かった大会だったと思いますが、結果としては自己ベストに迫る滑りを見せながらも惨敗で、世界のトップレベルとの差は明白でした。

 このとき圧倒的な力を見せていた韓国のイ・サンファ選手は「他の人は気にならない」とも言っており、小平選手は金メダルを取りたいものの、金メダルに必要な実力は足りていない状況を、この結果から再認識し自己改革を決心しました。「ベストを尽くしたのに、自分に何が足りなかったのか」とコメントしており、自分自身が変わる必要があると感じたことがうかがえます。  その小平選手がソチ後にオランダ留学をしたことが転機となったことはよく伝えられています。実は、小平選手はこのオランダ留学で、ただ強い選手と同じ練習をして、同じトレーニングを受けるという目的ではなく「オランダに行って世界を見てきたい、本物を見てきたい」という、自分の目指すべき方向を見つける意識を持って留学に行っていました。  留学してしばらく結果が出ない日々が続いたときにコーチから「大事なのは決して振り回されない自分の強い気持ちだ」という言葉を受けたそうです。これが、“自分でとことん考えて納得する滑り”をする、つまり「究極の滑り」を目指す方向性となっていったのでしょう。

 それからは、縦型比較思考の最高目標である「究極の滑り」に向け、現状の自分と比較して足りないものが何なのかを追求し、最高目標に向けた一つ一つのステップをオランダ留学や、最先端のスポーツ科学に基づいた学習を通じて「縦のステップ」を明確に具体的に設定したと考えられます。

トップアスリートにとっては横型思考をなくすことは難しいので、いかに縦型と横型思考のバランスをとるかが本番でよいパフォーマンスを発揮するキーポイントになってきます。  平昌オリンピックのレース前に「学びを積み上げた人が強い」と語っていた小平選手は、金メダルの期待やプレッシャーの中で『縦型比較思考』の頂点に置いた「究極の滑り」にこだわってその強さを世界に見せつけました。そしてレース後、金メダルという『横型比較』の位置づけと、『縦型比較思考』を持ちつづけていることを伝えてくれました。 「金メダルをもらうことはとても名誉なことですし、うれしいことなんですけれども、私の中ではメダルよりも、メダルを通してどういう人生を生きていくかっていうことが大事になると思うので、メダルに対して、どうっていうすごい思いはないんです。でもメダルは、周りの皆さんにとって私が戦ってきた証でもありますし、皆さんに支えていただいた証でもあるので、早く皆さんに見せたい、見ていただきたいっていう思いの方が強いです。」 この言葉に小平選手の強さが表現させているのではないでしょうか。

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◆スポーツ心理学博士 ​布施努の活動についてはこちらをご覧ください。 https://www.facebook.com/fusetsutomu/

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