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ラグビー日本代表に学ぶレジリエンス力

 新型コロナウイルスへの感染が心配される状況下で、スポーツ選手も今まで経験したことのない課題に直面しています。これまでになかった状況で不安やストレスを抱えている選手も多いのではないでしょうか。 このような状況下で上手く適応し始めている選手となかなか難しい選手の両者が存在しています。このストレスに対する個人差の一つの要因が「レジリエンス力」です。

 レジリエンス力は日本語で、「回復力」「逆境力」などと表現されています。レジリエンス力はいつも強くあるということではなく、ストレスがかかっても竹のようにしなやかに対処できる能力です。APA(アメリカ心理学会)の常任理事でもあったニューマン博士はこの能力は多くの人が持っていて学習や体験を通じて伸ばすことが可能だとしています。

 今回はレジリエンス力を大きくするために、特に重要な3つのキーポイント「繋がり」「変化に柔軟」「大きな視点を持つ」について、昨年W杯で大活躍したラグビー日本代表の選手達の事例をまじえて解説します。

①繋がり

 2019年ラグビーW杯で日本代表の初戦、田村優選手は試合後「緊張して死ぬかと思った」と発言するほど、大きなプレッシャーが掛かっていました。実際試合に入ると、前半からミスを続けていました。その状態で迎えた後半23分。相手がペナルティ。トライを狙ってタッチラインに出すか、ペナルティゴールで点差を広げるか両方の選択肢がある中でリーチマイケル主将が声をかけます。

「結構、風も強くて、僕は最初、トライとボーナスポイントが欲しくてタッチって言ってたんですけど、リーチがちょっと怒って『狙え』って。」

 レジリエンス力を発揮できる声かけです。レジリエンス力を伸ばすには「困ったときでも、あの人なら自分のことをわかってくれる」と感じられる繋がりがベースとなります。田村選手はリーチ主将からの『この試合、緊張感から今日はいい結果が出ていないが、何もぶれることはない。お前の本当の力は知っている』というメッセージを感じ取ったのです。

 このことを田村選手は

「リーチが僕に勇気を持たせるチャンスをくれて、よかったです。」

「開幕戦でプレッシャーに向き合うというチャンスを、キャプテンにもらいました。」

という言葉で表しています。

 まさに、リーチマイケル選手の言葉が大きなプレッシャーの中、田村選手が最高の力を発揮するための要因であると言えるでしょう。そして、その後の試合での田村選手の見せた素晴らしいプレーの数々に繋がっていったと考えられます。

②変化に柔軟

 アイルランド戦で田村選手は、相手の状態に合わせて、日本がこだわって強化してきたキックを中心とした戦術を捨て、ボールを繋ぐことを重視した戦い方に変えました。そのことがこの試合の勝利の大きな要因の一つと言われています。 田村選手は試合後「戦術なんて、いつでも変えられますから」と発言しており、大舞台でも柔軟にプレーできることを証明しました。

 自ら「泥臭いことは好きではない」「リーダーグループはやりたくないし、発言もしない」と話していた田村選手ですが、「判断が周囲へ伝えられない」ことへのジレンマと対峙することになり、自ら変わらなければと考えるようになりました。「人を待っていても始まらない。自分からつなげていく」ために積極的にミーティングでも発言し意思を共有しようとしたのです。

 選手としてのスタイルを変えるのは多くの選手にとって大変な葛藤です。しかし、田村選手はチームの置かれている状況をしっかり把握して、柔軟に対応できる考え方と行動力を発揮しました。その経験がレジリエンス力を伸ばし、厳しい試合でも自ら粘り強く戦いチームの最高のパフォーマンスを引き出すことにつながったのだと思います。

③大きな視点を持つ

 日本代表のリーダーグループというシステムは今回のW杯での躍進の重要なポイントでした。松島幸太朗選手もリーダーになったことで大きな変化があったと言います。

「4年前(2014年W杯)は、皆についていけばいいという気持ちで自分のプレーだけに専念していましたが、今回はチームのことも考えつつ、プレーで結果を出さなければいけないという意識が強かった。その意味で、自分のスタンダードは確実に上がったと思います。」

 「大きな視点を持つ」とは、直面している課題に対する見方を、「短期的な視点」から「長期的な視点」に、「個人的な視点」から「チームとしての視点」のように変化させられるようになることを指します。

 松島選手はリーダーグループの一員となったことでそれまで兼ね備えていた個人の能力に加え、今まで以上にいかにチームに貢献出来るかを考えるようになりました。その結果、疲れていても声に出して小さなコミュニケーションを取り、自分や周囲の意識を変えていったり、試合で劣勢になったときにも個人的な視点だけでなく、その状況で自分がどうチームに貢献していけばいいかを考えることにより、折れずに安定してハイレベルのプレーを続けることが出来るようになりました。

いまスポーツ選手だけでなく、ビジネスパーソンや教育現場、家庭でもコロナの状況で、これから何が起こるかわからない不安やストレスが大きいかと思います。レジリエンス力は既に多くの人が持っている力です。それを高めていくことがこの難局を乗り越え超える事にも繋がります。「繋がり」「変化に柔軟」「大きな視点を持つ」の3つのポイントを意識して、レジリエンス力を大きくするように、日常から活動してみてはいかがでしょうか。

--- これまでのコラムはこちら↓からご覧ください。 https://www.facebook.com/SPORTSforWIN/ ◆スポーツ心理学博士 ​布施努の活動についてはこちらをご覧ください。 https://www.facebook.com/fusetsutomu/

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